9.クマ財団の合宿に行ってきた。

 実は日本に一時帰国して、活動資金の一部を援助していただいているクマ財団が主催する、奨学生を対象とした合宿に行って参りました。昨今の反省を生かしてさっくりまとめていこうと思います。

1.クマ財団とは

 建築・絵画・音楽・映画・写真・ソフトウェアエンジニア・ハードウェアエンジニア・小説・漫画・メディアアート・演劇・ファッションデザイン・小説 etc・・・

 25才以下の学生クリエイターを対象に、返済不要の年間120万円の援助をいただける奨学生の第2期として採択されています。クマ財団というのはコロプラの社長が昨年設立した財団のことです。

 奨学生には以下の特典があります。

①年間120万円の返済不要の資金援助

②3月の青山スパイラルで開催されるKUMA EXHIBITIONへの出展権利

③年複数回開催されるイベントへの無料参加

④DMM.makeの利用特典

⑤その他手厚いサポート

・メンター、クリエイター、企業の紹介

・スキルアップ支援

・創作/発表スペースの提供

・資料貸し出し・情報提供

・奨学生同士の交流やプロジェクト活動・グループ展のサポート

など

学生からしたら、ありがたさしかない奨学金制度です。アウトプットさえあれば、ジャンルに縛りなくどんな学生でも応募できます。

2. クマ財団に応募した理由

 横のつながりを強く推すクマ財団は、ジャンルに偏りがないように多分野からなるべく均等に学生を選出していると思われます。そんな中、建築部門は今回自分を含め4人いました。

 他のクリエイターと比較すると、建築はステークホルダーも多く、学生のうちに実作を出すにはイニシャルコストの障壁が高く、とてもじゃないけど自分が建築部門を代表しているとは言えないもどかしさを、建築業界に対しても世の中全般に対しても応募当時から強く感じていました。自分がクリエイターと名乗るのは20年早いという自覚は棚にあげて、自分が応募しようと魅力的に思えた理由は、同世代のつながりの構築です。

 建築はあらゆる分野に通じているので、今後このつながりから自分のアウトプットを出していける可能性は非常に高いと考えました。今はNYにいますが、3月のスパイラルでの展示のあとも、このつながりを発展させていきたいと言う思いは強くあります。

3.クマ財団の求める建築の立ち位置(面接対策)

 財団のコンセプトや建築に関係のない審査員の略歴からして、審査段階ではある意味「ベタ」なアウトプットのプレゼンが必要だと思います。代によって異なるかもしれませんが、二期では建築そのものと向き合うと言うよりは、他のジャンルとつながる可能性を提示した人が残っているように感じました。こういったクリエイティブコミュニティにおいては、建築に限らずどのジャンルの人も作品なり思想なりで外向的なスタンスを提示できる人が向いているのではないでしょうか。もちろん、ひたむきに内向的にそれぞれの専門に向き合っている者同士が同一空間にいるだけで非連続的に影響を与え合う形式もあっていいと思いますが、あくまでコミュニティ設計側の視点に立つと、点と点よりは面と面が干渉し合う方がコラボのイメージがつきやすいと思います。

4.クマ財団における建築の立ち位置

 他のジャンルの人に「建築の人はどこの業界にもいるよね」と言われます。インテリアデザインしかり、家具デザインしかり、舞台設計しかり、メディアアートしかり、建築家として取り組んでいる人は実は五万といる。改めて「建築」とは何か、考えさせられます。僕はインテリアデザインの実作実績もメディアアートの実演実績もないけど、周りには建築学科ではないけどそれらの専門家がいる、という状況の中で、僕は一体何の専門家と言えるのでしょうか。

 建築家が建築以外のことを取り組むのは何も今に始まったことではありませんが、それでも建築産業が下り坂にある背景で生まれた表現拡張の一種という認識が僕にとっては強いです。そんな中、僕の考える建築家の暫定的なスペシャリティとは、各々の表現芸術、または全体の機構を一歩引いた目線で編集し、オーガナイズする、あるいはファシリテートしていく調停能力、だと思っています。現状のままだと、この形でしか生き残れない気もしています。矛盾しているようですが、あらゆる分野のアマチュアであり、まさにプロフェッショナルの対義語です。そのためにメタな視点で建築、都市、ひいては社会全体を考察し、こういう世界があったらいい、ということをコンセプト提案という形で提示していく。これが建築学生にできることの現状です。アビリティの切り口とプロダクトの切り口でいうと前者を語りがちな僕ですが、3月にゴールが設定されている以上は、専門性のあるプロダクトとしての強度をコンセプトに与えるために残りの期間頑張りたい所存なので、暫定的でも実作を立てられない状況下でプロダクトとしての専門性を考える期間としたいと思います。僕個人としては、建築から逃げてはいけないと思っています。建築を愛するということもまた、建築家のプロフェッショナルだと考えるようになったので。


5.奨学生の二種類のスタンス

 ジャンルは多様ですが、人によってクマ財団での目的がはっきりと住み分けできるなと思いました。

 ①自分の名を広めるための営業手段

 例えば展示会で新たなクライアントを見つける、そこから連絡をもらいメディアに進出する。自分個人の知名度をあげる。

 ②自分の活動のアーカイビング

 自分の活動としてポートフォリオに載せる。コラボを通して自分の作品の幅を広げるなど。

 中には起業して自分のブランドを売り出している人もいるので、客を増やす、仕事をもらうということを第一優先に動いている人もいます。これは合宿に来るまで僕には一ミリもなかった発想ですが、よくよく考えてみれば24歳、資格がなくても今の間から知名度をあげられるならあげておくに越したことはないし(多少胡散臭くても)、クライアントとのコネクション作りに早い遅いもないし、自分に新たに必要な能力だと思いました。

6.クリエイティブの向かう先

 僕の人生で初めて合うタイプの人たちも多く、人生経験に深みがました二日間でした。ジャンルを超えても共通する思想があったり、非常に学ぶことも多かった。

 一昔前までは、アートにはお金を払うひとがいて、それを広めるひとがいて、アーティストは自分の作品をただ作るだけ、ということが当たり前でした。しかし近年は、ジャンルにかかわらずアーティストが売り込み含め全部自分でやるということも当たり前になってきました。それはアーティストの全体数が増えたこと、娯楽のジャンルが増えたこと、世の中が豊かになったことなどいろいろな背景がありますが、概念もプロダクトも飽和している現代で新しい何かを生み出そうとするひとたちに課せられた一つの義務のようなものだと思いました。技術スキルが高いのを前提に、よりメタに自分のアウトプットを位置付ける能力すらも必要になってくる。建築は批評や理論化が20世紀の功績として蓄積されていますが、それがない分野もまだ以外と多い。クリエイティブの向かう先なんて誰にもわかりませんが、建築学科の友達とよく話す問題意識は、ジャンルを超えて共通していたりします。今後分野の距離感も変わっていくとしたら、僕はポジティブにこの変化を考えていきたいと思っています。


そんなことを、箱根の山中で、地球少年がさばいた蛇を食しながらぼんやり考えていたのでした。

MOCCHI

Photo by Yamaguchi Daiki

Tech-Tech-MOCCHI

NYの建築事務所でインターンしている建築大学院生のブログです。

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