17. REAL ESTATE WEEKEND AT HARVARD

 先日の土日にボストンに出向き、ハーバードで行われたREAL ESTATE WEEKENDと言うカンファレンスに行ってきました。ハーバードビジネススクール(HBS)とデザインスクール(GSD)共同主催で、ビジネスサイドとデザインサイド双方から不動産を考えるという日本の建築学生である自分にとっては新鮮な枠組みの中、学ぶことも多かったです。今年で第8回目を迎えるわけですが、自分の所属先事務所のボスPeter Gluckも去年登壇しています。

 構成は二日間でディスカッションパネル7組、KeyNote3組の総勢40名以上が登壇し、建築家やディベロッパーに限らずNYC副市長をはじめ投資家、経済学者、ベンチャーキャピタル、ホテル事業者、エンジニア、など多様なステークホルダーが登場して空間をどう作っていくか議論していました。印象的だったのは、ビジネスサイドの人も数字は使うけど意外とemotionalな言い方を多用することが多かったことです。

 さて、内容は全部書くととても膨大になって僕も読む人も嫌なので、とてもざっくりと一部だけを要約・感想付記したものになり、内容行き届かないところもありますがご容赦ください。

1. KyeNote1 Alicia Glen (NYC副市長)

 amazonHQのNYC撤退が話題になっていますが、もともと誘致の一番の立役者である彼女は他にもフェリーを交通機関として整備したり(南部のStaten SilandやNew Jerseyからの通勤者増加に際して)市内の公園を整備してイベントを誘致するなど様々な取り組みを積極的に指揮してきました。特にFinancial Cricis以降のAffordable Povertyに対するHousing NY Projectの説明が中心だったと思います。ブルックリンの開発方針についても。やっぱり20世紀の都市として代表格であるNYCとしては昨今の西海岸TechBoomに対する人材流動の懸念が強いようで、InovationをコアにInstituteを積極的に誘致し、東海岸のアカデミック機関のラボとスタートアップのオフィスを基軸に開発方針を整えるなどの方針。テクニカルな表現は一切使わず終始抽象的な説明でした。

2. Real Estate Technology

 ブロックチェーンによるスマートコントラクトが進めば不動産の流動化が進むことは東京の不動産ベンチャー界隈でも言われ出していますが、米国ではそれはもう当たり前の前提として次の業界に着目していると言う点で面白かったです。

 不動産テックにフォーカスして投資を行うVCであるMETAPROPの代表Leila Collinによれば、モジュールハウジングが今後普及していくだろうということでメインに投資しているらしいのです。ソフトの流動化の次は、ハードの流動化ということでしょうか。投資先の社名は話していませんでしが、実現可能性の十分に見込める強力なロジスティックスがバックグラウンドにあると言っていたので自信はありそうです。Big Dataの扱いに詳しいREXのCTOのAndyも、モジュラーハウジングが普及した場合、現在管理している地域のデータを用いれば、その地域のどこにどのような面積と配置で環境条件を満たしたモジュラーを組み込めばいいかの決定プロセスを最適化するロジスティクスの準備は十分にできているとおっしゃっていました。マーケティングから始まる不動産開発というソフトの部分とコンストラクションというハードの部分が、データサイエンスを通してつながるという意味で今後どうなっていくのかとても興味があります(何ならやりたい)。

 空き家大国の日本でやると何ができるのでしょうか。資材を生産するのではなく既存のエレメントを用いるのが効率よさそうです。研究室の教授も住宅履歴書と称してそういうデータのアーカイブを試みたことがあります。ちなみにモジュラーハウジング、実は以前紹介した内田祥哉先生(野城研の前身)が1970年代に執筆されたオープンシステムのベースの思想と連続しています。日本で空き家が分解されてモジュラーハウジングとして再生産されるオープンシステムが構築されると、日本の不動産業界も一気に変わりそうですね。なんだかまだまだ様々な障壁が高そうで現実味がありませんが。

3. The Shared Economy

 Wework, Airbnbと不動産業界に革命を起こしたビジネスモデルはレッドオーシャンとなりつつある今でも米国で様々な形で議論されているようです。

 純粋に建築学生として面白いと思ったのはOllieという会社の学生寮、ホテル、複数世帯住居の3つをフットプリントに合わせて組み合わせたり変えたりして開発を展開するOllieという会社のコンセプトでした。Real Estate of Commonという会社も地域と枠組みの一部が違うだけでコンセプトは似ていますね。Co-Eraと言われているくらいでこういったライフスタイルが柔軟になっていく流れに合わせた不動産サービスは世界中で取り組みがなされている中で、不動産「仲介」は現地のオーナーに対してローカルフィットな業界でもあるので地域選定がコアになってくるという話になっていました。Buyer側とSeller側双方にエージェントがある米国特有の不動産システムについても言及されていました。Co-Eraで考えられるのは果たしてCo-LivingとCo-workingだけなのか?人々のニーズや人生をもっと細分化して分類してみるとひょんな組み合わせが起きるということをみんな必死に探しているんですね。


4. How to start your own real estate firm

 実は米国でインターンしながら同僚と話していて一番感じる流行みたいなものの一つとして、「アトリエ事務所をやりたい」ではなく「デザイン不動産事務所」を開きたいと言っている人が多いということです。No-Cliant Architectと呼んだりもしていますが、今はまだマジョリティではないこのビジネスモデルは必ずもっとpopularになるだろうと話しています。

 今回のパネルではOMA、DSR出身のゴリゴリデザインサイド出身のHWKNのMatthias HollwichやらAvelaのプリンシパルやら色んなバックグラウンドの人がいたのですが、メインとなったトピックはどうもemotionalな部分が多く、narrative makingのようなディスカッションになってしまっていました。自分で開発する場合は初期担保が最初にある程度必要だし、協働するinvestorやdealerのキャラクターによって左右されるいわゆる「運」任せなところもあり、まだ体系化された方法論は確立されていないようです。(ちなみにアーキテクトがディヴェロップを行う際のリスクやメリットを体系化する一助となる論文を書くことが今の所修士研究の目標になりそうです)

5. Keynote2 MUSTAFA.K.ADABAN (Partner of SOM) / JOHN DURSHINGER ( Brookfield Property Partners)

 1日目最後のkeynoteはSOMとBrookfieldのトップ二人によるマンハッタンの大計画の紹介でした。本日で一番建築的な説明でした。MoynihanやTime Warner、今週オープニングのhudsonyardのマスタープランなどマンハッタン最後の大計画について語られました。登壇者の年齢層も他のパネルと違って高いせいか、ダイアグラムを使ってゾーニングを説明し綺麗なセクションパースをみせるなどクラシカルなプレゼン手法で建築学生としては聞きやすかったです。もっと開発サイドの話を聞きたかったけどデザインフェイズの話ばかりだったのが少し物足りなかったですが、学部時代の建築設計に傾倒していた自分を懐かしく思いながら聞いていました。

6. REAL ESTATE INVESTMENTS

 ここから二日目のまとめです。初日のGunt Hallから場所を移しビジネススクールのホールに。初のHBSだったのですがGSDと違ってサーブされるドリンクフードやホール環境の良さを見せつけられ、これが資本の力か、、、という感じでした。大雪とまさかのこの日からサマータイムという罠にはまって30 分遅刻していまうというドジっぷり。。

 全パネルの中でもかなりビジネルよりのパネルであるしょっぱな。ベインやBlackstoneのパートナーもいることもあり、かなりマクロな議論になりました。特に今米国はPoliticalな面で不安定な要素も多いので、投資家サイドからしても長期予測はしにくい状況では、Real Estateはもっとオープンになってもいいという結論に。移民の関係するLower Growthも問題視されており、トランプ政権の方向性の影響は強く、Affordavility Crisisは想像以上に複雑な問題のようです。アメリカの内政状況についてはニュース程度しか知らないので、時間あればもう少し歴史とか勉強したいですね。

7. TRENDS IN HOSPITALITY

 まさにホテルオーナーvsAirbnbの構図。Airbnbの与えた衝撃はすさまじいですが、ホテル企業のオーナーも実にクリティカルに対策をしていることがとても印象的でした。LW Hospitality AdvisorのプレジデントDaniel Lesserはとてもクリティカルで、マーケットを絞れば俄然ホテルが有利な状況があるということを論理的に説明してくれました。また、ホテル業界全体の流れとして、ホテルロビーならではの豪華な体験にバリューが出てくる揺り戻しは予測されており、それにフォーカスしたホスピタリティに注力しているということで意見が一致していました。日本だと「変なホテル」とかニッチなターゲティングでせめてるところもある感じですが、今日の議論ではあまり話されなかったです。(ブティックホテルについてはありました。)彼らの目指すのは、ゴージャスな体験をお手軽価格で提供できるホテル。そのために枕業界やシャンプーまでありとあらゆるプロダクト業界家具業界との接点を密にし、合理化していく必要があると述べていました。

8. KeyNote3 MICHAEL STERN ( CEO, JDS Development Group)

 今僕がもっとも注目しているConstruction部門を有するReal Estatement CompanyであるJDSは、マンハッタンでメガプロジェクトをいくつも成功させています。Hard Costの削減はディべサイドからは難しいという議論がCo-eraパネルでもされていたのですが、そのリスクを自ら下げることによってチャレンジングなデザインを発注しやすくしたモデルです。

 開発サイドの話を期待していたのに、ほとんどのトピックがデザインとコンストラクションの話でした。どうやってAMERICAN COPPER やらMONADやら111WEST57THと言った挑戦的なゾーニングをなしえたのかが聞きたかったのに少し残念です。デザインを有名アーキテクトに外注するのはやっぱり収益率を上げるためなのでしょうか?でもこの方式だとデザインのかなりのウェイトを自社の裁量で出来るので、利益を最低限確保したままデザインのコアもディティールもでき、アーキテクトはブランディングの一環として使っているのかなと思ったりもします。

9.OPPORTUNITY ZONES

 オポチュニティゾーンとは、トランプ政権で制定された新しい節税政策で、簡単にいうと税制優遇というインセンティブ用いて、保有している不動産資産などを売却(EXIT)させ、貧困地域への投資を促すというものです。国政が既得権益の再分配を促している背景で経済格差をどのように是正していくかということで、投資家は今までのようにマーケットを回すだけでなく自らの足で動いてコミュニティと距離感を縮めなければならない時代になりつつあるという議論は面白かったです。資本家がお金のことだけ考えていい時代でもなく、デザイナーはデザインのことだけ考えていい時代でもない。両者がお互いの分野を最低限理解して初めてディープなコラボレーションにコミットでき、それが現代の世の中にとって価値のある空間を生むフローになっていくというのは確かにそうだなと思いました。

10.MEGA PROJECT

 世界中の目がプロジェクトを手がけるディべの人たちによるプロジェクトの紹介。個人的に印象的だったのはやっぱりNew York City Economic Development CorporationのCali Williamsの手がけるNYのSunnyside Yardの話でした。ターミナル駅の再開発で自分の卒制ともかぶったりもするのですが、コアコンセプトに3つあげてて、transit hub, Open spaceはまあいつも通りって感じなんですけど、Institutionをそのあとに掲げてたのが印象的で、大学の研究機関などテクノロジーの開発パートとなるラボを駅中に設けるという。日本は不動産価値は伸び代がない背景なので渋谷は例えばざっくりと床を積んで賃貸でGoogleに一棟貸すみたいなリスクを下げた開発ですが、それと比較すると0→1を拠点におくというのは面白いアイデアだなと素直に思いました。かなりリスクをとった開発にも見えるのですが、そういった挑戦がNYCを今になってもInovationが生まれる都市にしているのかもしれません。

COCKTAIL PARTY

 夜はカクテルパーティーが開催され、なんともアメリカンなソーシャルイベントとなりました。平均年齢層が少し自分より高く、自分でビジネスを持っている人が大半の中、何故かいる日本の学生として自分のバックグラウンドを説明するのは大変でしたが、同じ価値観を共有するSloanやHBSの学生とも意気投合して連絡先を交換できたりもしたので、良いイベントでした。英語コミュニケーション能力も少しずつ良くなっているのかな。

 世界のビジネスのトップ層の人と話す機会で感じた自分の初歩的な課題。デザインサイドからして、建築においてアーキテクトの領域を拡張することが結局のところデザインを向上進展させるものだと信じて自分の目指すところとしているものの、ビジネスサイドから見たら(特に投資家から見て)デザイナーがマネーフローの責任の一旦を持つことのメリットとして、「コミュニケーションコストの削減」と「デザイナーの権利の保護」以上のバリューを論理的にビジュアルなしで説明する言葉がまだ見つからなかったことです。「いい建築を世の中に残したい」というシンプルなことがどういったメリットになるのかを論理的に説明することの難しさを痛感しました。さすがにもうちょっとお金のこと勉強しないととは思いましたが、実作で語っていくところもあるのかもしれません。


かいつまんで10個全部書きましたが、各パネルの登壇者のプロフィールは以下のサイトに。


生き生きと「こんな空間を作りたい」と語るビジネスサイドの人たちを見ていると、空間をデザインするのは誰なのか?ということを今一度ちゃんと考えないとなと思いました。どんなポジションにいようと僕は絶対手を動かせる人間でありたいのは確実なんですが。ひとまずまた明日からまた現場に戻ります。

MOCCHI

Tech-Tech-MOCCHI

NYの建築事務所でインターンしている建築大学院生のブログです。

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